派遣社員は派遣法に基づいて仕事をしています。派遣法は派遣社員の自由を奪うこともありますが、基本的には派遣社員を守ってくれる法律でもあります。その派遣法では派遣社員を守るためにいくつかの「派遣社員にさせてはいけないこと」が定められています。
本来であれば派遣社員を雇う側がしっておくべきことですが、そこまで知識のない人がいるのも事実。そこで派遣社員が自分の身を守るために、派遣先が派遣社員にさせてはいけないことについてご紹介していきます。
派遣社員にさせてはいけない7つのこと
まずは派遣先が派遣社員にさせてはいけないことを挙げていきます。
- 契約にない仕事
- 事前面談・事前面接
- サービス残業
- 二重派遣
- 福利厚生施設の使用禁止
- 30日以内の労働者派遣
- 部署の異動
すべて派遣法で定められているわけではありませんが、この7つに関しては依頼されても断ることができます。正確には断らなくてはいけません。そのためには、それぞれのさせてはいけないことをもう少し詳しく知っておく必要があります。
それぞれのさせてはいけないことについて、分かりやすく解説していきます。
契約にない仕事
派遣社員にさせてはいけないことの中で、もっともよく違反されるのがこの「契約にない仕事」です。派遣社員は原則として契約書に書かれている仕事しかさせることができません。
- お茶汲み
- 掃除
- 出張
- 電話番
このような契約にない仕事は依頼してはいけませんし、派遣社員は受ける必要はありません。ただ、お茶汲みや掃除などはそもそも契約書に書くような内容でもないので、面談のときに確認しておくのが基本です。
「お茶汲みや掃除などの雑用を派遣社員がすることもありますか?」と聞いておきましょう。問題はそれらの仕事があるかないかではなく、事前に通達しているかどうかです。ですので、そのような雑務がある場合には派遣先から伝えるのが筋です。
でも、そういう認識がない派遣先もありますので、派遣社員としてどんな仕事をしなくてはいけないのかを、面談の段階ではっきりとさせておきましょう。
事前面談・事前面接
そもそも事前面接や事前面談が派遣法としてはNGです。派遣会社は依頼のあったスキルを持った人材を派遣するというのが建前で、その人を受け入れるかどうかを面接や面談をして決める権利は派遣先にはありません。
でも現実として事前面談はほぼ間違いなくあります。これは拒否することもできないと考えてください。面談を断ったら「じゃあ他の人で」となりますので。事前面談や事前面接をしないというのは正直なところ現実的ではありません。
誰も得しないルールですので、頭の片隅に置いておくだけで十分です。
サービス残業
サービス残業は派遣社員に限らず、正社員にさせるのもNGです。ただ、正社員は「会社のため」という考え方もできます。ところが派遣社員にとって派遣先の会社の経営がどうなっていようが知ったことではありません。
派遣社員は派遣会社の社員であり、サービス残業をするということは「会社のため」にはならないどころか、会社の利益に反します。当然ながら断るべきですし、すぐに派遣会社の営業担当を呼んで、派遣契約を終了させるようにお願いしましょう。
契約書で定められている残業時間以上の残業も断れます。ただ、これに関しては自分で判断しましょう。残業代をきちんと出してくれるなら、残業時間が長くても気にしないという人もいると思います。本当は契約時間を超えての労働はNGですが、臨機応変に対応しましょう。
二重派遣
派遣先から別の派遣先に派遣される二重派遣は、法律で禁止されています。事務職などではあまり発生しませんが、請負契約の多いIT系の派遣の場合には、知らないうちに二重派遣になっていることがよくあります。
- 派遣先の会社以外で働いている
- 派遣先の社員以外から仕事の指示がある
こうなると完全に二重派遣です。もちろん違法行為ですが、難しいのはこれがあたり前になっている業界があり「二重派遣はNG」とすると、その業界では契約できる案件が減ってしまうということです。
二重派遣は禁止ですが、こちらも事前面接や事前面談と同じように、受け入れるしかないのが現実です。「よくないことだけど、個人の力ではどうしようもない」くらいに考えておきましょう。気になるようなら、派遣会社に相談してみましょう。
福利厚生施設の使用禁止
以前は「派遣社員は食堂利用禁止」なんてことがあたり前に言われていましたが、最近は改善している派遣先も多いかと思います。2020年4月に改正された労働者派遣法により同一労働同一賃金が導入され、その中で派遣先の正社員との待遇を同等にするように定められています。
社員食堂だけでなく、その他の福利厚生を派遣社員でも利用できるように徐々に移行しつつあります。とはいえやはり利用するとなると気を使いますよね。普段の仕事をする範囲内で待遇差を感じて困っているのでなければ、あれこれ求めすぎないのがベターです。
ただ事前面談をするときには、どこまで利用できるのかを確認しておくといいでしょう。正社員と明らかに待遇が違うようでしたら、派遣社員を使い捨てのようにしか考えていない可能性もあるので、契約するかどうかはよく考えてください。
30日以内の労働者派遣
2015年の派遣法改正によって、日雇い派遣が原則禁止になっています。正確には30日以内で契約終了する労働者派遣がNGです。これは派遣会社がきちんと把握していることですので、実際に30日以下の契約が発生することはありません。
そういうルールが有るということだけ覚えておきましょう。
部署の異動
派遣社員は派遣先の決められた部署で働きます。隣の部署が忙しいからそちらを手伝ってと言われても、隣の部署の仕事はそもそも契約外ですので受けることはできません。もちろん勝手に別の部署に異動させられるのもNGです。
もちろん派遣社員がOKをした場合には、部署の異動は可能です。ただし、派遣契約の内容が変わりますので、現在の契約を終了させて、新たに派遣契約を結び直すことになります。
させてはいけないことを依頼されたときの対処方法
派遣社員にさせてはいけないことを把握してもらえたかと思いますが、実際に大事なのはこのようなことを依頼されたときに、どう対処すればいいかということですよね。すべてを断っていたのでは、とても派遣社員として働き続けることはできません。
- 譲れないもの以外は受け入れる
- 損をしないのであれば許容する
基本的な考えとしては、この2つを持つことをおすすめします。
まず、自分が絶対に譲れないこと以外は、何でも受け入れるようにしましょう。どこにその線引があるのかは人によって違います。正社員の使っている食堂を派遣社員が使えないという「不公平さ」を譲れない人もいますし、「絶対にお茶汲みはしない」と決めている人もいます。
その受け入れられないこと以外は、どうでもいいというスタンスが理想です。ただ、サービス残業のように自分が損をすることは断りましょう。あくまでも稼ぐために働いているわけです。損をするような依頼があった場合には、派遣会社の担当に相談してください。
派遣社員として働き続けるには「この人に長くいてもらいたい」と思える人になることが重要です。仕事ができるかどうかも含めて、柔軟な対応ができる人ほど重宝されます。反対にルールに厳格で融通の利かない人は契約更新をしてもらえません。
それが派遣社員が受け入れなくてはいけない現実です。相手に媚びる必要はありませんが、頼まれたら何でも二つ返事で対応しましょう。「それはルール上できません」と断ることを続けていれば「使えないやつ」になってしまいます。
まとめ
派遣社員を守るためのルールがいくつもありますが、実際に正しく運用されているとは限りません。無自覚にルールを破る人もいれば、意図的にさせてはいけないことをさせる人もいます。まずはその現状を理解してください。
ルールはあってもそのルールで社会というゲームは動いていない。だとしたら、譲れないことや損をすること以外は受け入れる。そういうスタンスも大切です。
もちろんルールを厳格に守らせるという考え方もあります。そこに自分の信念があるならそれを貫き通すのもいいでしょう。ただ、その場合には短期で契約が終了したり、派遣先が見つかりにくくなったりするということを頭に入れておきましょう。
きれいごとばかり並べても仕事はできません。ルールはきちんと頭に入れておき、そのうえで自分の選ぶ道は自分で決めるようにしましょう。